コンビニや郵便局に置いてある、使用済みインクカートリッジの回収箱。なんとなく「環境にいいんだろう」と思って入れていましたが、ふと「これって何のためにあるんだろう」と気になって調べてみました。そうしたら、思っていたのとちょっと違う世界が見えてきたので書いておきます。
先に言っておくと、私は空カートリッジを売るつもりはありません。ただ、そういう世界があることを知っておくと、回収箱の見え方が少し変わります。
回収箱の正体
あの回収箱は、キヤノン・エプソン・ブラザー・HPなどのプリンターメーカーが共同で運営している「インクカートリッジ里帰りプロジェクト」などの窓口です。集めたカートリッジはメーカーごとに仕分けされ、各社の工場に戻ります。そこでプラスチック・スポンジ・金属端子・残ったインクに分解され、プラスチックは再生材に、金属は回収、インクは適正処理されます。一部はそのまま洗浄・再充填して再利用される用途にも回るそうです。
環境面の意味としては、だいたい次の3つです。
- 家庭ごみなら焼却や埋立になるところを、素材として回収できる
- 複数の素材が組み合わさった部品なので、自治体の分別より専用ルートのほうが処理しやすい
- 残ったインクが管理された形で処理される
ただ、カートリッジ1個から取れる再生プラスチックは数十グラム。1個あたりの環境インパクトはかなり小さいというのが正直なところです。
メーカー側の事情
調べていて「なるほど」と思ったのがここです。回収はメーカーにとってもメリットがあります。
ひとつは原料コストや環境対応のアピール。もうひとつ、たぶん本音として大きいのが「互換インク業者に空カートリッジが流れるのを防げる」ことです。純正の空カートリッジは、洗浄して再充填し、安い再生品として売られることが多い。メーカーとしては純正の売上を食われるわけで、空を先に回収してしまえばその供給源を減らせます。
回収してもお金がもらえないのは、1個の価値が数円以下で、回収・輸送・分解のコストのほうが高いから。デポジット制にすると回収するたびに損になる、という理屈です。缶やペットボトルの無償回収と同じといえば同じですが、「無料で素材を戻して、しかもライバル対策にも協力している」と考えると、少しモヤっとする人もいると思います。私はモヤっとしました。
空カートリッジはメルカリで売れる
そこで出てくるのがフリマアプリです。「空 インクカートリッジ」で検索すると、実際にかなりの数が出品されていて、普通に取引されています。
買っているのは、自分で詰め替えして使う人や、洗浄・再充填して互換品として売る小規模な業者。つまり、メーカーが回収箱で「行ってほしくない」先に、ダイレクトに届いているわけです。
相場はカートリッジの種類でかなり違います(あくまで見た範囲での目安です)。
- キヤノンのFINEカートリッジ系(BC-345/346、BC-310/311など、ヘッド一体型)は高め。ヘッド部分が再利用できるので、1個100〜300円くらい
- キヤノンBCI-371/381系やエプソンのIC80・IC70系など、インクタンクだけの純正は安い。10〜30個まとめて数百円〜1,000円程度
- 互換品の空はほぼ値がつかない
売り方のコツとしては、洗わない(インクが残っているほうが喜ばれる)、乾燥しないようキャップやビニールで密閉する、型番と個数を明記する、まとめ売りにする、あたりが定番のようです。単価が安いので、送料が安い発送方法に収めないと利益が消えます。
違法じゃないの?
一応気になったので調べました。自分が使った空カートリッジを中古品として売ること自体は違法ではありません。メルカリの規約上も問題ないカテゴリです。
グレーさが出るのは、買った側がそれをどう使うか。2007年の最高裁判決(キヤノン対リサイクル・アシスト事件)で、「洗浄・再充填の加工が特許品を実質的に作り直したと言えるレベルなら特許侵害になる」という判断が出ています。ただしこれは再生業者側の話で、空を売った人が問われるものではありません。また、その後メーカー側が詰め替えを再現しにくい構造(ICチップなど)を採用し、再生業者側もそれを避けた形で製品を作るようになっているそうです。
古物営業法も、他人から買い集めて転売する商売なら許可が必要ですが、自分の持ち物の処分なら対象外です。
で、どうするか
私は売りません。理由は単純で、うちのプリンターの使用頻度だと空が貯まるまでに何年もかかるし、数百円のために保管して出品するのが面倒だからです。
ただ、回収箱の見え方は変わりました。「環境のために入れる」というより、「捨ててもいいものを、ついでに資源に戻す」くらいの温度感でいいのだと思います。そして、その回収箱の裏側に、空カートリッジを数百円で取引する人たちと、それを潰したいメーカーの静かな攻防がある。知らなくても困らないけれど、知っていると少し面白い話でした。