半年前、私は「AppleはAI競争に乗り遅れ、閉鎖的なエコシステムに胡坐をかいたまま衰退する」と書きました。 今もその見立ては変えていない。
ただ、この半年で別のことが起きた。 勝った側だと思っていたGoogleの製品から、自分の手で一つ離れることになった。
先に断っておくと、これは「Googleを捨てる」話ではない。 Google製品自体は今でも素晴らしい。GmailもカレンダーもPixelも手放す気はない。 離れたのは、閉じていた製品だけだ。
「OK Google」が聞き返してくるようになった
きっかけは小さい。
9月に入り、AndroidのGoogleアシスタントが段階的に終了し、「OK Google」で立ち上がるのがGeminiになった。 それまでは「OK Google、買い物リストにきゅうり追加」で一発だった。 Gemini になってからは、いちいち聞き返してくる。
Geminiアプリのカスタム指示に「タスク追加は確認せずそのまま登録して」と書いても駄目だった。 旧アシスタントは決まった命令を即実行する道具で、Geminiは会話する道具だ。用途が違うものに、ある日勝手に差し替えられた。
音声で一発追加という、生活の中で一番使っていた機能が、退化した。
問題はKeepではなく、Keepが閉じていたこと
買い物リストの置き場所はGoogle Keepだった。 Keepのリスト機能はお世辞にも使いやすいとは言えないが、アシスタントから声で追加できる限りは困らなかった。
Geminiが使いにくくなった時点で、私が欲しかったのは「別のAIからKeepを使う」道だ。 ClaudeなりChatGPTなりから「買い物リストにきゅうり追加して」と言えれば、Keepはそのまま使い続けられた。Geminiがまともになる日が来れば、戻ることもできた。
その道がなかった。 KeepはAPIを公開していない。MCPも出していない。 GoogleのAIからしか触れない。
Geminiの側も、自分でMCPサーバーを追加する仕組みがない。Googleが選んだ相手としか繋がらない。 つまりGoogleの中で完結している限りは動くが、一歩外に出た瞬間、何も繋がらない構造になっている。
Todoistに移した
Claudeのコネクタ一覧にTodoistがあった。 繋いで「買い物リスト見える?」と聞いたら、Keepと同じ内容がそのまま返ってきた。 Keepのスクショを貼って「移行して」と言ったら、重複を避けて残りを入れてくれた。
妻のスマホにもTodoistを入れ、起動画面を買い物リストに固定した。 アプリをタップすればリストが出る。妻にとってはKeepと何も変わらない。
私の側は、Claudeとの会話の途中で「あ、ケチャップ切れてた」と言えば入る。 Todoistの音声入力でも入る。買い物中はウィジェットで消す。
Keepでやりたかったことが、全部できるようになった。
戻れなくなった、という事実
ここで一つ気づいた。
使いにくくなったのはKeepではなく、Geminiだった。 Keepが他のAIから使えてさえいれば、私はKeepに留まった。 閉じていたから出ていった。
そして出ていった今、Geminiが将来どれだけ良くなっても、私はGeminiに戻れない。 GeminiはTodoistと繋がらないからだ。
閉じることで囲い込んだつもりが、閉じていたせいで出口が一方通行になり、二度と戻ってこない客を作った。 これがロックインの本当のコストだと思う。今の利用者を縛るのではなく、将来の選択肢を潰す。
GmailとカレンダーはMCPで十分使えている
念のため書いておくと、Google製品が全部駄目なわけではない。
GmailとGoogleカレンダーは、Claudeからコネクタ経由で普通に使っている。 「来週の予定を見て空いてる日を教えて」で答えが返るし、予定も入る。 不満はない。
違いは一つ。開いているか、閉じているか。 開いているGoogle製品は今も便利で、閉じているGoogle製品から人が逃げていく。それだけの話だ。
だから「脱・Google」は正確ではない。 「閉じたGoogle製品からの脱出」が正しい。
まるでAppleを見ているようだ
半年前にAppleについて書いた文章を、そのままGoogleに置き換えて読める。
AIで勝てていない。Geminiは今、ClaudeやChatGPTに大きく差をつけられている。 それなのに、Workspaceという足場の上で閉じている。 本来なら、Workspaceにも繋ぎつつ、MCPにも他社のサービスにも繋いで、正々堂々と使いやすさで勝負するべきだった。 その土俵に上がらずに、自分の庭の中だけで戦っている。
守るものを持った企業は、こうなるのだろうか。 AppleがSiriでやったことを、GoogleがGeminiでやっている。
半年前の自分に足りなかった軸
半年前の記事で私が見ていたのは「AIモデルでどちらが勝つか」だった。 Appleは負ける、Googleは勝つ。だからGoogleに乗る。
実際に生活を左右したのは、モデルの性能ではなかった。 「自分のデータや道具を、自分が選んだAIから使えるか」だった。
Keepの一件で、選ぶ基準がはっきりした。 ベンダーの勝ち負けに賭けない。開いているインターフェースを持つ道具を選ぶ。 閉じた道具は、そのベンダーのAIが負けた瞬間に道連れになる。
次に閉じるのがどこかは分からない。 Googleがこの先も閉じたままなら、一つずつ別の道具に置き換わっていくだけだ。 Keepは、その最初の一つだった。