車について漠然と信じていたことを一つずつ調べ直したら、思っていたのと違う話がいくつも出てきた。関税、ブランドの位置づけ、日本車の実際のシェア、EV政策の転換、そして中国メーカーの台頭まで。順番に整理しておく。

数字は特記がなければ2025年通年のもの。

1. 外車が高いのは関税のせいではない

日本は1978年に乗用車の輸入関税を撤廃しており、現在も0%。消費税は国産車と同じなので、価格差の説明にはならない。

実際の理由はこのあたり。

  • 輸入されるグレードが偏っている(本国の安いエントリーモデルは入れない)
  • 販売台数が少なく、認証取得・右ハンドル化・保安基準適合の固定費を少ない台数で回収する必要がある
  • 輸送費と正規輸入元・ディーラー網の維持コスト
  • 為替。円安局面はそのまま値上げになる
  • 維持費も高い。部品が国内在庫されず取り寄せ、工賃も専門店価格

アメリカが日本車にかける関税の話題と混同されやすいが、日本側は輸入車にほぼ障壁を設けていない。それでも国内で外車のシェアが伸びないことが、長年アメリカ側の不満になってきた経緯がある。

2. ベンツは本国でも「高級車」なのか

ドイツ国内でも上位ブランドではあるが、日本で感じるほど遠い存在ではない。

  • 現地にはAクラスや小型バンなど、日本にほとんど入らないエントリー帯がある
  • Eクラスはタクシーの定番、Sprinter は宅配業者や職人の足。「働くベンツ」の比率が高い
  • 比較対象が違う。ドイツでは VW・オペルが大衆車、その一段上にベンツ・BMW・アウディという三層構造

なお、トラック・バス部門は2021年に Daimler Truck として分社済み。現在の Mercedes-Benz Group は乗用車とバンが中心で、近年は利益率の高い上位モデルに集中する方針を打ち出している。

3. ジムニーノマドはインドと日本、どちらが安いのか

ジムニーノマドはインドのマルチ・スズキ製。「インドで高くて日本で安い」という話を検証すると、実は車両価格だけなら日本のほうがやや高い。

車両価格乗り出し
インド₹12.39〜14.52 lakh(約206〜242万円)₹14.57〜17.04 lakh(約243〜284万円)
日本265.1万円(MT) / 275万円(AT)約289万円 / 約299万円

※1ルピー約1.67円換算

それでも「インドでは高い」という感覚は正しい。理由は税と位置づけにある。

インド国内向けは税が重い。インドの ex-showroom 価格には既に間接税が乗っている。全長4m未満でも1.2L超のガソリン車(ジムニーの1.5Lが該当)は、以前は GST 28% + セス 17% の合計45%課税だった。2025年9月のGST 2.0で引き下げられたが、それでも約40%。さらに州ごとの道路税・登録料が on-road 価格に上乗せされる。

輸出分にはインドの税がかからない。輸出はゼロ税率なので、日本向けの個体はインドの間接税を負わずに出ていく。日本側も乗用車の輸入関税は0%、消費税10%と重量税・環境性能割のみ。

現地では明確にニッチな上級車。スズキの上級チャネル NEXA 扱いで、主力が₹6〜8 lakh帯の市場に₹14 lakh超の商品を置いている。FY2025のインド国内出荷は8,740台に対し、輸出は47,982台。実質は輸出用の車。

4. ドイツで日本車はほとんど売れていない

2025年のドイツ国内新規登録は285万7,591台。日系メーカーの内訳は以下の通り。

ブランド台数シェア
トヨタ(レクサス除く)87,5783.1%
マツダ40,7241.4%
日産31,1121.1%
スズキ22,3690.8%
三菱20,3610.7%
ホンダ7,2690.3%
レクサス4,6610.2%
スバル3,9780.1%

合計しても7〜8%程度。比較すると、VW単体で56万台・19.6%、メルセデス9.1%、BMW 8.9%、アウディ7.2%、シュコダ7.9%。日本車全ブランドの合計が、VW傘下のシュコダ1ブランドとほぼ同じ規模 ということになる。

伸びない理由はいくつか重なっている。

  • 社用車市場が大きい。新車の大半が法人登録で、その領域は独プレミアム3社の牙城
  • 長らくディーゼル中心の市場で、日本勢が手薄だった分野で市場が形成された
  • ディーラー網の密度。地方ほど独ブランドの整備網が圧倒的
  • 自国メーカーへの支持が強い

5. レクサスとは何か

トヨタ自動車の高級車ブランド。別会社ではなく社内カンパニー扱い。

1989年に 北米市場向け として立ち上げられた。トヨタの名前が「安くて壊れない大衆車」として定着しすぎていて、その看板のままでは高額帯が売れない。そこでブランドもディーラー網も別に用意した、という戦略。ホンダのアキュラ(1986年)、日産のインフィニティ(1989年)もほぼ同じ時期に同じ理由で作られている。

日本国内では2005年まで販売しておらず、同じ車をトヨタブランドで売っていた。

  • セルシオ → LS
  • アリスト → GS
  • ウィンダム → ES
  • ハリアー → RX
  • アルテッツァ → IS

メルセデスやBMWが最初から「上のクラス」として認識されているのに対し、レクサスは既存の大衆ブランドから上に伸ばすために後付けで作った、という出自の違いがある。

その構造は今も数字に出ている。2025年のレクサス世界販売は過去最高の88万2,231台だが、地域別では北米40万8,070台、アジア23万7,946台、日本8万7,418台に対し、欧州は8万686台で唯一の前年割れ。ドイツに至っては4,661台。メルセデスがドイツ1国で26万台売っていることを思えば、桁が違う。

6. 世界全体で見れば日本車は圧倒的に強い

日系8社(トヨタ、ホンダ、日産、スズキ、ダイハツ、マツダ、スバル、三菱)の合計世界販売は、2026年3月期で2,434万台。世界市場が年間約9,000万台なので、おおむね4分の1強

単独ではトヨタグループが2025年に1,132万2,575台で6年連続の世界1位。2位のVWグループ898万3,900台を大きく引き離している。

つまりドイツが例外的にダメなだけで、総合では強い。

日本車が売れている国(概算・順序は目安)

  1. アメリカ 約600万台 — 日系6社の販売は2019年からほぼ横ばい。市場1,620万台の約37%
  2. 日本 約430万台 — 国内市場456万5,777台のほぼ全量
  3. 中国 約310万台 — トヨタ・ホンダ・日産の3社で2019年の472万台から3分の1減
  4. インド 約220万台 — マルチ・スズキが主軸
  5. インドネシア 約70万台 — 日系シェア81%
  6. タイ 約40万台 — 2019年に約90%だったシェアが68%まで低下

以下、オーストラリア、カナダ、メキシコ、フィリピン、ベトナムが続く。

ASEAN6か国での日系販売は2019年比で22%減。タイとインドネシアはシェアが1年で8〜9ポイント落ち、中国ブランドがその大半を取っている(タイ22%、インドネシア14%)。

7. 「日本車は壊れない」は今も正しいのか

ドイツの2大指標で結果が割れている、というのが正直なところ。

車検データ(TÜV Report 2025)では日本車が上位。レクサスが2〜3年落ちの不具合率1.1%でトップ。トヨタは量販ブランドで最も信頼性が高く、初回車検を無欠陥で通過する比率86.9%。

ロードサービス出動データ(ADAC)ではトヨタが不振。2025年版でトヨタ C-HR(2020年式)が1,000台あたり63.1件と全体最悪。Yaris 29.2、Yaris Cross 40.0、RAV4 18.4も低評価で、主因はスターターバッテリー。2026年版でも改善は確認されず、3年連続で悪い評価。逆にアウディ、BMW、メルセデス、VWグループは軒並み良好。

つまり「部品が摩耗して壊れる」耐久性ではまだ強いが、「今日エンジンがかからない」タイプの故障では負けている。後者のほうが所有者の体感には直結する。

そしてそもそも、ドイツでは信頼性が購買判断に効きにくい。

  • 新車の大半が法人・リース契約で、期間中の修理費は乗り手の財布から出ない
  • 効くのは残価率。残価が高いほど月額リース料が下がり、ドイツ国内では独ブランドが強い
  • アウトバーンでの長時間高速巡航という、日本と違う評価軸

アメリカで日本車が市場の3分の1を占めるのは、個人が買って長く乗る比率が高く、信頼性がそのまま財布に効くから。市場構造が違えば、同じ長所が武器にならない。

8. 外車の部品と修理

「全然売れない・修理できない」は言い過ぎだが、方向性は当たっている。

  • 部品は入手できるが時間と金がかかる。国内在庫がない部品は本国取り寄せで数週間〜数か月、単価も2〜3倍
  • 専用診断機の壁。メーカー専用スキャンツールがないと故障診断もリセットもできない。街の整備工場が「外車は見られません」と言う主因
  • リセールは車種差が極端。Gクラス、911、ラングラーは国産以上に値落ちしないが、大型セダンや不人気グレードは3年で半値以下も普通

要は「外車だから」ではなく、その車種に国内の整備網と中古需要があるか で決まる。

9. EU の「2035年ガソリン車禁止」はどうなったか

2025年12月16日、欧州委員会が2035年のCO2削減目標を2021年比100%減から 90%減に緩和 する案を発表。一定の条件を満たせばガソリン車・ハイブリッド・水素エンジン車の販売を2035年以降も継続できる。

ただし「撤回」報道には注意が要る。元々EUの規制は「エンジン禁止」ではなく「新車のCO2排出ゼロ」という結果規制で、方向性自体は維持されている。90%減という数値も相当厳しく、2021年の規制値95g/kmに対して平均9.5g/km。バイオ燃料や低炭素鋼で埋める必要がある。

EV は本当に環境に悪いのか

「発電の炭素強度が決定的」という指摘は正しく、研究もそこを最大の変数としている。ただ「大抵は内燃機関のほうが良い」という結論は、現状のデータとは合わない。

  • ICCT の2025年分析では、EU平均電源でBEVは63g CO2e/km、ガソリン車は235g、ハイブリッドはガソリン車比20%減。BEVは製造時排出が約40%多いが、約17,000km走行で相殺される
  • 一方で地域差は極端。BEVのブレークイーブン距離は32,000〜124,000km。インドは64,000〜124,000km(4〜7年)
  • 米国の研究では、北東部とフロリダを除き、大型で長航続のBEV(Model Sクラス)はハイブリッドより排出が多いという結果も出ている

まとめると「小型EV+低炭素電源+走行距離が多い」なら有利、「大型EV+石炭火力+あまり乗らない」なら不利。日本の電源構成はその中間。

ヨーロッパは何を考えていたのか

環境だけが動機ではなかった。石油の輸入依存からの脱却(エネルギー安全保障)、ディーゼルゲート後の都市大気汚染、そして 産業政策。内燃機関の熟成度では日本に勝てないので、EVでルールをリセットすれば主導権を取り戻せる、という賭けだった。

その賭けが外れた。リセットした先で待っていたのが中国の電池とコスト競争力だったから。今の方針転換は「間違いに気づいた」というより「賭けに負けて撤退中」と見るほうが筋が通る。

10. マルチパスウェイという考え方

トヨタが掲げる全方位戦略。EVだけに一本化せず、ハイブリッド、PHV、EV、燃料電池車、水素エンジン、合成燃料を並行して開発・販売する。

根拠は 電池の配分 の議論。

  • EV1台には大きな電池が要る。同じ量のリチウムでハイブリッドなら数十台分をまかなえる
  • 電源が石炭火力中心の国でEVを1台売るより、ハイブリッドを数十台売ったほうがCO2削減の総量は大きい
  • 電池の生産能力も原材料も有限で、どこに割り当てるかが実効的な削減量を決める

これに、充電インフラ・電源構成・走行距離・気候といった地域差の主張が乗る。

批判されている点も併記しておく。

  • 「全方位」はEVへの本気度の低さの言い訳で、投資判断の先送りではないか
  • ハイブリッドを売り続ければ石油需要は残り、ゼロエミッションには到達しない
  • 電池の生産能力が有限という前提自体、中国の増産で崩れつつある
  • EVの開発が遅れれば、ソフトウェアや電池技術で永久に取り返せなくなる

数年前は「時代遅れ」と批判される側だったが、EU の政策転換や欧州各社のEV計画後退で、短期の読みとしては当たった形になっている。長期的にどうかは、まだ結論が出ていない。

11. 欧州はいま誰と戦っているのか

「日本と戦うのか中国と戦うのか」の二択ではなく、選べなくなった結果の中間に落ち着きつつある。同時に3つをやっている。

中国には貿易障壁で時間を稼ぐ。2024年10月から中国製EVに追加関税(テスラ上海7.8%、BYD 17%、吉利18.8%、協力企業20.7%、SAIC/MGは非協力で35.3%)。通常の10%関税と合わせると17.8〜45.3%。ただし2026年1月に欧州委が関税を最低輸入価格制度で置き換える指針を公表し、事実上の緩和交渉に入っている。

これは効いていない。中国側は関税対象外のPHVに切り替え、2025年1〜2月のEU向けPHV輸出は前年比892%増。さらにBYDはハンガリー工場を稼働させ、関税も最低価格制度も域内生産で回避しにきている。

内燃機関・HVの規制を緩めて自国メーカーの収益源を守る。CO2目標90%減への緩和がこれ。EVで稼げるようになるまでの資金をエンジン車で稼がせる、という延命策の色が濃い。

EV自体は諦めていない。方向性は維持したまま、期限だけ後ろにずらしている。

12. テスラについて

全車種100%EV。ハイブリッドは一台も作っていない。街で見かけるのはおそらくModel 3かModel Y。

太陽光で走り続けられるという話は誤り。市販のテスラに太陽光パネルは付いていない。混同の原因はテスラが家庭用の太陽光パネルと蓄電池(Powerwall)も売っていること。物理的にも、車の屋根の面積では晴天でも1日数km分の電力にしかならない。

品質評価は割れている。パネルの隙間や塗装といった建て付けの粗さは昔から批判の的。ただ機械的な信頼性は、ADAC故障統計2026でModel 3が1,000台あたり0.7件と好成績で、独プレミアム勢と並んで「一貫して優秀」なグループに入っている。「仕上げは雑だが止まらない」という理解が近い。

自動運転は現状レベル2。常時のドライバー監視が必要な運転支援で、「Full Self-Driving」は将来のビジョンを示す名称。テスラは事故率が約5分の1と主張しているが、米国では複数の死亡事故の調査が続いている。当局から名称が誤解を招くと指摘され、「Supervised(監視付き)」が付け加えられた。

日本での状況。自動駐車(オートパーク)とスマートサモンはエンハンスト・オートパイロット(43万6,000円)に含まれ、既に使える。未解禁なのは上位のFSDケイパビリティ(87万1,000円)のうち、信号・標識の認識と市街地でのオートステアリング。駐車場という閉じた空間の低速走行は認められていて、公道の市街地をシステム主導で走るのが国際基準待ち、という線引き。

日本の規制は国連UNECEの枠組みに準拠するため、基準改訂(UN R171)の採択が前提になる。テスラジャパンは2025年8月から東京・神奈川・大阪でテスト走行を実施し、2026年内の実装を目標としている。

航続距離。モデル3が594〜766km(WLTC)、モデルYロングレンジAWDが682km、3列シートのモデルY Lが788km。ガソリン車の満タン走行距離と比べても遜色ない水準。

ただし2週間もつかどうかを決めるのは航続距離ではなく補給のやり方。自宅充電できれば毎朝満充電で、給油に行く回数がゼロになる。できなければ、急速充電で15分あたり最大288km分という運用になり、ガソリンの5分とは体感が違う。判断軸は「航続距離が足りるか」より「自宅に充電設備を引けるか」。

まとめ

調べ直して印象が変わった点を挙げておく。

  1. 関税の話は思い込みだった。日本の乗用車輸入関税は0%。価格差は流通構造と台数の問題
  2. 日本車のシェアは地域差が極端。世界全体では4分の1強で圧倒的に強いが、ドイツでは7〜8%しかない
  3. 性能が良ければ売れるわけではない。法人リース中心の市場では、信頼性という最大の武器が購買判断の場で効かない
  4. 欧州のEV政策は環境政策であると同時に産業政策だった。日本に勝てない土俵を捨てて新しい土俵を作ろうとしたら、そこで中国に負けた
  5. 中国メーカーは制度の穴を突くのが早い。関税がEVにかかればPHVで、それも塞がれれば域内生産で。政策の想定より常に一手速い
  6. どれか一つが正解、という構造ではない。電源構成も石油調達も国ごとに違う以上、地域ごとに最適解が変わるのは自然なこと

車の話のようでいて、実際には産業政策と地政学の話だった、というのが一番の発見だった。