日本の首都が法律で定められていないのは知られた話です。今回気になったのはその先で、最近の日本が首都機能をどうしようとしているのか、そして国の仕事がなぜここまで対面にこだわり続けるのか、という点でした。

調べていくうちに、ひとつ引っかかることが出てきました。副首都をめぐる議論で、賛成派も反対派もあまり触れていない論点があるように見えたんです。

最近の動き:副首都法が施行された

首都機能を東京から移す議論は昔からありました。1990年に国会が移転を決議し、1999年には候補地まで示されましたが、1か所に絞りきれず、2000年代半ばに立ち消えになっています。

久しぶりに具体的に動いたのが「副首都」法です。2026年7月に参院で賛成123、反対121の僅差で成立しました。目的は、東京が大災害に遭ったときに国の機能を止めないためのバックアップと、東京への一極集中を和らげることです。

10月27日には指定要件の政令が閣議決定されました。国の出先機関の数、人口規模、経済規模などの条件を満たしたのは、北海道・愛知・大阪・福岡の4道府県です。法律は10月30日に施行され、首相を本部長とする推進本部が置かれました。副首都に何を置くのかを定める基本方針は、2027年10月にまとまる予定です。

省庁単位では、すでに移転の例もあります。2023年に文化庁が京都へ移りました。ただ、国会対応や他省庁との調整は東京で行う必要があり、職員の移動の負担は移転当初から課題とされています。

なぜ対面をやめないのか

分散すると困るのは、結局のところ移動です。だったらオンラインでやればいい。そう思って調べてみると、国の中枢、特に国会まわりはほとんど変わっていませんでした。

国会の審議そのもの:憲法の壁

国会がオンライン化しない一番の理由は憲法です。憲法56条に「総議員の3分の1以上の出席がなければ議事を開き議決できない」という規定があり、この「出席」にオンラインが含まれるかどうかが争点になっています。

2022年に衆院の憲法審査会が「緊急時などは例外的にオンライン出席も含まれる」という解釈をまとめました。ただ、憲法学者からは反対意見もあり、平常時のオンライン国会は実現していません。

議員への説明:こちらは慣習の問題

一方で、官僚が国会議員に政策を説明する「レク」や、質問の中身を聞き取る「質問取り」は、憲法とは関係ありません。それでも対面が根強く残っています。

  • コロナ禍に国家公務員480人を対象にした調査で、議員への説明は対面のままだったという回答が83%
  • 厚生労働省だけで議員への説明が年間約9100回あり、通常は地下鉄で議員会館まで移動している
  • 2021年に与野党で質問通告の早期化とオンラインレクの活用を申し合わせたものの、その後もオンラインの活用はごく一部にとどまっている

変わらない背景としては、コミュニケーションの手段は立場が上の側が決めるものだという指摘や、紙やFAXの文化が残っていることなどが挙げられていました。道具もあるし、申し合わせもある。それでも変わっていません。

賛成派と反対派は何を議論していたか

では、副首都法の審議でこの問題は取り上げられたのか。国会の審議録や報道を調べてみました。

反対派の批判は、主に次のような点に集中していました。

  • 大阪都構想を実現するための法律ではないか
  • 数兆円規模の国費がかかり得るのに、総額も財源も示されていない
  • 基本方針が閣議決定だけで決まり、国会が関与できない
  • 候補地自体が南海トラフ地震のリスクを抱えている

効率面での疑問も、まったくなかったわけではありません。「第二東京を作るような副首都が本当に必要なのか」という意見や、「立川やさいたま新都心でバックアップの整備がすでに進んでいる」という指摘がありました。有識者からも、行政機能の分散がかえって非効率を招く可能性に触れる声がありました。

賛成派の側では、元の法案に情報通信技術の活用という視点が入っていなかった点を、一部の党が修正案で補っています。行政のデジタル化やデータ基盤の整備が施策に加えられ、この修正は可決されました。ただ、これはデジタル基盤やデータの保全の話で、議員レクを対面でやるかどうかといった慣習には触れていません。

さらに大事な点として、三権分立の観点から、国会と裁判所はそれぞれ自分で検討することになっています。つまり、対面の慣習がいちばん強く残っている国会側の働き方は、そもそもこの法律の対象外です。

順序が逆じゃないか

ここからは私の考えです。

まず対面をやめられる体制を作り、そのうえで分散する。順序はそうあるべきだと思います。

対面が前提のまま拠点だけを分ければ、分けた分だけ移動が増えます。文化庁で起きている苦労が、あちこちで繰り返されるだけです。

今の副首都は、ふだんは東京で回し、非常時に切り替える「バックアップ型」が中心です。なので、平時に移動が急に増えるわけではありません。ただ、非常時に離れた拠点で国を回すなら、遠隔でも仕事が回ることが前提になります。東京が被災したとき、議員も官僚も全員が副首都に移動して、そこで改めて対面で説明して回る。それは現実的とは思えません。

調べた範囲では、この「まず働き方、次に分散」という順序の問題を正面から論じた意見は見当たりませんでした。審議の多くは大阪ありきかどうか、費用、国会の関与といった論点に時間が使われていました。もちろん私が見落としているだけかもしれません。ただ、少なくとも議論の中心にはなっていないようです。

エンジニアとして思うこと

システムの世界では、バックアップ拠点を用意しただけでは安心できません。切り替え手順が実際に動くかを試しておかないと、いざというときに使えないからです。そしてその手順が「担当者全員が現地に集まる」前提だったら、障害が起きたときにはまず動きません。

副首都も同じ構図に見えます。どの道府県を指定するか、何を整備するかという話は進んでいます。でも、その拠点で実際に仕事を回す方法、つまり遠隔でのやり取りを当たり前にすることは、置き去りになっているように感じます。

副首都の中身を決める基本方針は来年10月にまとまる予定です。そこで働き方の話がどこまで入ってくるのか、気にして見ていようと思います。

参考