月3,277円の医療保険を解約した。2018年に加入したので、およそ8年。払込総額はざっくり35万円くらいになる。一度も給付金を受け取ることなく終わった。

結論から書くと、解約してよかったと思っている。ただ、決断までにけっこう時間がかかったし、最後は数字ではなく気持ちの問題だった。同じように「なんとなく払い続けている保険」がある人向けに、考えた過程を残しておく。

きっかけは高額療養費制度

そもそもの疑問は「日本には高額療養費制度があるのに、民間の医療保険って要るのか?」だった。

高額療養費制度は、1ヶ月の医療費の自己負担に上限を設ける仕組み。上限額は所得によって変わるが、現役世代なら月およそ8万〜18万円程度に収まる。医療費が100万円かかっても、窓口で払うのは上限までで、超えた分は戻ってくる。

さらに、12ヶ月以内に3回上限に達すると、4回目からは「多数回該当」で上限がぐっと下がる。長期の治療になるほど、月々の負担は自動的に軽くなる設計になっている。

つまり保険診療の範囲では、医療費が青天井になることは基本的にない。

最悪ケースを計算してみた

不安の正体を潰すために、最悪のシナリオを数字にした。

仮に重い病気で、12ヶ月連続で毎月自己負担の上限に達し続けたとする。多数回該当を考慮すると、初年度の医療費はおよそ100万〜150万円。差額ベッド代(個室代)を上乗せしても、年間200万〜300万円あたりが実質的な天井になる。

2年目以降は多数回該当が効き続けるので、負担はさらに下がる。「毎年300万円が延々と続く」という状態は、制度上ほぼ発生しない。

この数字を見て気づいたのは、医療保険が要るかどうかは、健康リスクではなく貯蓄額で決まる ということだった。

保険は「起きたら払えない出費」に備える道具だ。払える出費なら、貯蓄で払ったほうが保険会社の取り分がないぶん得になる。最悪ケースの数百万円を貯蓄で吸収できるなら、医療保険の出番は原理的にない。逆に貯蓄が薄い時期には、月数千円で破綻リスクを消せる合理的な商品になる。要る・要らないは商品の良し悪しではなく、自分の貯蓄フェーズの問題だった。

2026年8月の制度改定も調べた

ちょうどこの8月から、高額療養費の自己負担上限が引き上げられた。第1段階では全所得区分で上限が上がり、2027年8月には所得区分の細分化が予定されている。

「制度が渋くなるなら保険が要るのでは?」とも考えたが、引き上げ幅は所得区分によって違い、私の区分では月数千円〜1万円台。最悪ケースの試算が1割ちょっと増える程度で、判断がひっくり返るほどのインパクトではなかった。むしろ多数回該当は据え置きで、年間上限も新設されるので、長期治療への歯止めは維持されている。

ただ、公的保障が今後も少しずつ渋くなる方向であること自体は覚えておいていいと思う。その対策は月数千円の保険ではなく、手元の資産と収入基盤のほうが効く。

保険料控除は「2割引」程度

医療保険は介護医療保険料控除の対象になる。年間約4万円の保険料に対して、節税効果は所得税+住民税で年8,000円前後(所得による)。

つまり控除は「保険を2割引で買える」効果であって、不要なものを必要に変えるほどの力はない。判断材料としては小さかった。

残した場合のコストを生涯で見た

私の契約は終身払いの掛け捨てだったので、生きている限り払い続けることになる。

  • 60歳まで: 約90万円
  • 70歳まで: 約130万円
  • 80歳まで: 約169万円

一方、受け取れる側は入院日額8,000円+手術給付が中心。平均的な入院を人生で数回しても、給付の合計はせいぜい50〜90万円。普通に使っても、生涯収支は差し引き100万円前後のマイナス になる見込みだった。

掛け捨て保険とはそういう商品なので、これ自体は騙されているわけではない。ただ「いつか使う日が来るから」と思って残しても、使う日が来てなお収支はマイナスというのは、ちゃんと数字にして初めて腹落ちした。

解約はWebで5分だった

契約していたのはネオファースト生命(現・第一ネオ生命)。解約は拍子抜けするほど簡単だった。

  1. 契約者マイページにログイン
  2. 「各種お手続き」→「ご契約の解約」
  3. 注意事項を確認して進むだけ。書類も電話も不要

解約日は手続き完了日で即日成立。完了通知が約1週間後に郵送されてくる。

ひとつ実務的なコツとして、保険料の決済日を確認してから解約する のがいい。私の場合はクレジットカード払で毎月13日決済だったので、その直前に手続きすれば、払い済みの月の保障を使い切ってから切れる。

解約前に確認したこと

  • 解約返戻金の有無: 私の契約は「無解約返戻金型」で0円。貯蓄型の場合は返戻率の推移を見てから決めたほうがいい
  • 登録住所: 完了通知が郵送されるので、引っ越していたら先に住所変更
  • 健康状態: 解約後に病気が見つかると、その病気は二度と保険でカバーできない。健診で気になる指摘がある人は、片付いてからのほうが安全
  • 特約の中身: 先進医療特約(月75円で技術料数百万円をカバー)だけは貯蓄で代替しにくい部分なので、これをどう考えるかは人による

最後に残ったのは「怖さ」だった

数字の検討は途中で終わっていた。最後まで残ったのは「8年払ってきたものを手放す怖さ」と「切った途端に病気になったらどうしよう」という感覚だった。

前者はサンクコスト。払った35万円は8年間の保障として消費済みで、解約してもしなくても戻らない。入院しなかったのは掛け捨て保険の正しい使われ方で、火事にならなかった年の火災保険と同じだ。

後者について冷静に考えると、解約の翌月に病気が見つかる確率は、解約前月と変わらない。変わるのは確率ではなく「自分のせいにできてしまうかどうか」だけだった。

それでも怖いなら残していい、とも思う。月3,277円は家計を壊す金額ではないし、安心料として払う判断も非合理ではない。私は「浮いた分を貯蓄に回すほうが、自分の場合は安心につながる」と思えたので切った。

まとめ

  • 高額療養費制度がある日本では、医療費の最悪ケースは年数百万円で頭打ち
  • それを貯蓄で払えるなら、医療保険は経済的にはほぼ不要。払えないフェーズなら持つ意味がある
  • 控除は2割引程度。掛け捨ての生涯収支は使ってもマイナス
  • 解約はWeb完結で5分。決済日と解約返戻金だけ確認してから
  • 最後は数字ではなく気持ちの問題。怖いなら残すのも正解のうち

年間約4万円、80歳まで持ち続けたつもりで考えれば100万円超。これを「何もなかったときに手元に残るお金」に変えた、という話でした。

※保険の要否は貯蓄額・働き方・家族構成で大きく変わります。この記事は一個人の判断の記録で、解約を勧めるものではありません。