ジムニーノマドに乗るようになってから、ずっと頭の片隅にあったことがある。もし事故を起こしたら、あるいは事故に巻き込まれたら、私は正しく動けるのか。
保険には入っている。でも「入っている」と「使い方を知っている」は別だ。事故の現場は動揺しているし、判断力も落ちる。その状態で初めて考えるのは無理がある。というわけで、時間があるうちに調べて整理しておくことにした。
以下は私の理解を整理したメモであり、法律の専門家による助言ではない。過失割合や賠償は個別の事情で結論が変わる領域なので、実際に事故に遭ったら保険会社と、必要なら弁護士に相談してほしい。
初動は「誰が悪いか」に関係なく同じ
最初に引っかかっていたのがここだった。自分が悪い場合、相手が悪い場合、どちらとも言えない場合で、やることが変わるんじゃないかと思っていた。
結論から言うと、変わらない。過失割合の判断は後で保険会社がやることなので、現場では以下を順にやるだけでいい。
- 負傷者の救護と安全確保。ケガ人がいれば119番、車はハザードを付けて安全な場所へ
- 110番。これは法律上の義務で、届け出ないと交通事故証明書が出ず、保険が使えなくなる。軽い物損でも必ず呼ぶ
- 相手の情報を確認。氏名・住所・連絡先・ナンバー・加入保険会社
- 現場の記録。車の位置関係や損傷の写真、ドラレコ映像の保存、目撃者がいれば連絡先
- 自分の保険会社へ連絡。帰宅後ではなく、現場から
5番は私の認識が間違っていた部分だ。帰ってから落ち着いて電話すればいいと思っていたが、事故受付は24時間対応で、レッカーや代車の手配、その場で確認しておくべきことを指示してくれる。警察の対応が一段落したところで一本入れるのが正しい。
「すみません」は非を認めたことになるのか
日本人としては、ぶつかった瞬間に「すみません」が口から出る。これが後で不利にならないのか、というのが一番の疑問だった。
調べた限り、社会的な挨拶としての謝罪がそのまま法的な過失の自認になることはほぼない。過失割合は当事者の感情表現ではなく、信号の色、道路の形状、衝突箇所、ドラレコ映像といった客観的な事実で決まるからだ。
ただし線引きはある。
言っていいのは「すみません、大丈夫ですか」「お怪我はありませんか」といった、相手の身を案じる表現。むしろこれを言わないほうが相手を硬化させて話がこじれる。
避けるべきなのは、原因と金額に踏み込む発言だ。「前をよく見ていませんでした」は具体的な事実の自認になるし、記憶が曖昧なうちに言うと後で映像と食い違っても撤回しにくい。「全額こちらで払います」は謝罪ではなく合意なので、後から効いてくる。
私の中では「謝るのはいいが、原因と金額は口にしない」と覚えることにした。相手が食い下がってきたら、こう言えばいい。
申し訳ありません。ただ状況はよく分からないので、詳しいことは警察と保険会社にお任せします。
現場で示談はしない
これは調べる前から何となく知っていたが、理由まではっきりさせておくと納得度が違う。
まず、その場では損害額が確定しない。外から見て軽い凹みでも、分解したらフレームやセンサーがやられていて見積もりが跳ね上がることは普通にある。人身なら後から首や腰に症状が出ることもある。
そして示談は原則やり直しがきかない。示談書には「本件に関し他に債権債務がないことを相互に確認する」といった清算条項が入るので、一度サインすると追加請求ができない。
面白かったのは、これが保険会社側の要請でもあるという点だ。私の証券に入っていた「安心カード」にも、事故時の手順と並べて「その場での示談はしないでください」とはっきり書かれていた。つまり断る理由として、こちらの都合ではなく契約上の事情を出せる。
保険を使いますので、示談の話は保険会社を通してお願いします
これで十分だし、相手もそれ以上は押せない。
警察に届け出ても示談は必要
ここは私が完全に混同していたところだった。警察に届け出るなら、示談の話は関係なくなるんじゃないかと思っていた。
違った。警察と示談はまったく別のトラックを走っている。
警察がやるのは事故の記録と、刑事・行政面の処理だ。実況見分調書を作り、人身なら立件を検討し、免許の点数を処理する。損害賠償には一切関与しない。誰がいくら払うかを決めることも、過失割合を認定することもない。
示談は民事の話で、修理代や治療費を誰がどう負担するかの合意。これは当事者、実務上は保険会社同士でやる。
だから届け出ても示談の必要性は消えない。むしろ逆で、事故証明が出ることが保険を使って示談を進める前提条件になる。届け出は示談の土台だった。
過失割合は誰が決めるのか
これも警察が決めると思っていたが、違う。
決めるのは両者の保険会社の交渉で、そのよりどころになっているのが判例タイムズ38号という過失相殺率の認定基準本らしい。事故類型ごとに「この状況なら基本60対40、一時停止規制があればこう修正」という基準が細かく載っていて、実務はほぼこれに沿って決まる。
誰かの裁量ではなく、類型へのあてはめ。だからドラレコと現場写真が効いてくる。どの類型に当たるかが確定すれば、割合はほぼ自動的に出るからだ。
まとまらなければ交通事故紛争処理センターなどのADR、最終的には裁判所。ただ実際には、交通事故の圧倒的多数は示談で終わる。争うコストのほうが譲るコストより高いので、双方にとって示談が合理的になるという構造だ。
10対0が一番やっかいという話
「10対0なんて滅多にない、絶対に1割はつく」というのはよく聞く話だが、これは正確ではないようだ。
停止中の追突、センターオーバーの正面衝突、赤信号無視、駐車中の車への衝突。このあたりは基準上も100対0とされる類型で、実際に10対0で処理されている。「動いている車同士だとゼロになりにくい」が正しくて、「絶対に1割つく」は誤りだった。
ただし、もらい事故には制度上の落とし穴がある。
自分の過失がゼロの場合、自分の保険会社は示談代行ができない。賠償責任を負っていない以上、他人の交渉を代理すると弁護士法に触れるためだ。つまり被害者なのに、自分だけ相手方保険会社と一対一で向き合うことになる。プロ相手に素人が交渉する構図だ。
しかも相手方保険会社には、過失をゼロにしない動機がある。1割でも認めさせれば支払いが減るうえ、こちらの保険会社を交渉の場に引きずり出せる。だから「あなたにも前方不注視があったのでは」と言ってくる。
もらい事故が一番ラクだと思っていたが、構造的には一番やっかいだった。
弁護士費用特約でその穴が埋まる
で、この構図を無効化するのが弁護士費用特約だ。付いていれば自己負担ほぼなしで弁護士に依頼でき、相手方保険会社とのやり取りを全部引き取ってもらえる。慰謝料も弁護士基準で計算されるので金額も上がる。使っても等級は下がらない。
私の証券を確認したところ、弁護士費用(自動車事故型)特約は付いていた。年間で数千円レベルの上乗せに対して、使えば数十万円の弁護士費用が浮く。付けない理由がない類の特約だと思う。
ついでに証券を見返して、他にも知らずに付いていたものがあった。
車両保険無過失事故特約。もらい事故で車両保険を使っても等級が下がらないというもの。相手方が過失を争って支払いが長引く場合、先に自分の車両保険で直してしまえる。
人身傷害。過失割合の確定を待たずに、自分の保険から治療費や休業損害が出る。交渉が長引いても治療費で困らない。
契約したときは代理店の説明を聞いて何となくうなずいていただけだったが、意味が分かると見え方がまるで違う。
準備しておくこと
調べた結果、事故が起きてからでは間に合わないものが3つあった。
- 事故受付の電話番号 をスマホの連絡先に登録し、車内にも控えを置く。商品によって窓口の番号が違う場合があるので、証券で確認する
- 保険証券の写真 をスマホに保存。証券番号を聞かれる
- ドラレコの映像保護ボタンの位置 を確認しておく。事故の瞬間に焦って探すことになるので
あとは車検証と自賠責証明書が車内にあるか。これは法律上、常時携行が必要だ。
まとめ
長々と書いたが、結局のところ覚えることは少ない。
- 救護 → 110番 → 記録 → 保険会社に電話
- 謝ってもいいが、原因と金額は言わない
- 現場で示談はしない
- 少しでも体に違和感があれば当日か翌日に受診する
- 過失ゼロで揉めそうなら弁護士費用特約を使う
現場で自分が判断するのは、実はこれだけだ。あとは電話して言われた通りに動けばいい。事故直後は冷静ではいられないので、「自分で考えずに保険会社に聞く」と決めておくくらいでちょうどいいと思う。
冒頭にも書いたが、これは私が調べて整理した内容であって、専門家の見解ではない。実際の対応は保険会社の指示に従ってほしい。