昔、電気の勉強をしていた時期がある。そのとき知った知識のひとつがこれだ。
「原発は夜も止められないから、深夜は電気が余る。だから深夜電力でお湯を沸かすエコキュートや、夜中に水を汲み上げる揚水発電がある」
ふと気になって最近の事情を調べてみたら、この知識、きれいに逆転していた。今の日本で電気が余るのは夜ではなく、晴れた日の昼 だ。
余る時間帯が夜から昼に変わった
理由は太陽光発電の大量導入だ。冷暖房をあまり使わない春や秋の、晴れた休日の昼は、太陽光がフル稼働する一方で需要が少ない。供給が需要を上回ると周波数が乱れて最悪大停電になるので、電力会社は発電を止めさせる「出力制御」を実施する。2026年度の出力制御量は過去最大の25.3億kWhになる見通しで、九州・東北・北海道に集中している。
九州が特に厳しいのは、日照に恵まれて太陽光の導入量が多いこと、原発が4基動いていて昼も一定出力を出し続けること、そして余った電気を本州に送る関門連系線の容量に限りがあること。この3つが重なっているからだ。
そして2026年3月1日、ついに東京電力エリアでも初の出力制御が実施された。日曜の昼、11時から16時。抑制量は184万kWだった。これで全国10エリアすべてが出力制御を経験したことになる。首都圏でも今後は常態化していく可能性が高いらしい。
じゃあエコキュートはどうなったのか
深夜にお湯を沸かすエコキュートは、思想としては時代遅れになりつつある。メーカー側もそれを分かっていて、太陽光の余剰電力で昼に沸き上げる「おひさまエコキュート」のような製品や、夜間の沸き上げ量を抑えて翌日の昼に沸かす「昼間シフト」機能が各社の機種に載るようになった。電力会社側も昼間が安い料金プランを出して、給湯の昼シフトを誘導し始めている。
ちなみにヒートポンプは外気温が高いほど効率が上がるので、深夜の冷えた空気より昼の暖かい空気で沸かすほうが、同じお湯を少ない電力で作れる。経済・系統・物理の全部が「昼」を指し始めている。
ではいつ電気を使うのが電力網にとって一番いいのか。答えはシンプルで、晴れた日の昼(9〜15時)に使い、日没後の夕方17〜20時を避ける。夕方は太陽光が消えるのに需要が跳ね上がる、一番苦しい時間帯だ。洗濯・食洗機・EV充電は昼に寄せるのが貢献になる。
揚水発電は「配置転換」されて生きていた
昔勉強した揚水発電も健在だった。ただし役割が変わっていて、昔は「夜に汲んで昼に発電」だったのが、今は「昼に汲んで夕方に発電」。真逆の使い方になっている。
調べていて面白かったのが、揚水発電所の多くは「純揚水」といって、山の上と下に専用の池を2つ掘り、同じ水を上げ下げしてグルグル回しているだけだということ。川の水を使い切る一方通行ではなく閉じたループなので、飲用水や農業用水と取り合いにならない。水は電気を運ぶ「おもり」として使い回されている。
効率は65〜75%程度で、汲み上げに使った電力の3割ほどは失われる。もったいなく見えるが、元手が「捨てるはずだった昼の太陽光」なら7割戻れば十分な商売だ。
蓄電池と比べると、往復効率ではリチウムイオン電池(85〜90%)に負ける。ただ揚水は土木構造物なので寿命が40〜60年、機器更新すれば事実上100年使える。15〜20年で交換が必要な電池とは時間軸が違う。実務では競合というより分業で、秒単位の細かい調整と数時間シフトは電池、大容量をどっしり構えて数十年働くのは揚水、という役割分担になっている。
新規の揚水はほぼ作られていない。山の上下に池を作れる適地は高度成長期からバブル期にほぼ使い尽くされ、神流川発電所(1993年に調査着手、1号機の運転開始が2005年、いまだ全ユニット未完成)が事実上最後の大型新設だ。今の方向性は新設ではなく、汲み上げの強さを調整できる「可変速揚水」への改造にある。昭和に建てた資産を令和の系統に合わせて改修して使い倒す。枯れたインフラの延命運用の世界である。
ついでに知った小ネタ
- 東西で50Hz/60Hzが分かれているのは、明治時代に東京電燈がドイツ製(50Hz)、大阪電燈がアメリカ製(60Hz)の発電機を輸入したから。深い技術的理由はなく「最初に買った機械がそうだったから」。統一には10兆円規模かかる試算で、変換所を増強するほうが安いという結論になり続けている
- 2026年4月16日には柏崎刈羽原発6号機が営業運転を開始した。営業運転は14年ぶりで、福島の事故後、東電の原発再稼働はこれが初。「止められない原発+春秋の太陽光」という九州と同じ構図が東京エリアにもできるので、出力制御はむしろ増える方向らしい
- 出力制御には順番があり、まず火力を絞る→揚水で汲む→他エリアに送る→バイオマスを止める→最後に太陽光・風力を止める。水力・原子力・地熱は「長期固定電源」として最後まで守られる
まとめ
昔勉強した電力の常識は、序列がそっくり入れ替わっていた。夜余る→昼余る。夜に汲む→昼に汲む。深夜電力でお湯を沸かす→太陽光で昼に沸かす。
ただ、仕組みの骨格そのものは変わっていない。需要と供給を常に一致させないと系統が壊れる、という大原則の上で、余る時間帯が移動しただけだ。基礎を勉強しておいてよかったと思うのは、こういうときである。